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お木曳行事に向けての課題。

 県外の方と話す機会があると、よく「遷宮」と「御木曳・御白石持行事」についてお話をします。伊勢市の人達にとっては当たり前の事なのですが、県外の方には馴染みのないお話なのでしょう。

遷宮と御木曳・御白石持行事とは

遷宮とは

伊勢神宮は20年に一度新しく建て替えられ、そして御神体も新しい宮に移ります。
外宮・内宮の本殿のみならず、14の別宮や内宮の五十鈴川にかかる宇治橋も架け替えられます。まさに20年に一度の一大行事となる訳です。

伊勢神宮公式HP

https://www.isejingu.or.jp/

御木曳・御白石持行事とは

古くから伊勢神宮の領内に住む人たちは「神領民(しんりょうみん)」と呼ばれており、年貢も免除されていたと言われています。その代わりとして神領民は神宮に奉仕するのがならわしとなっています。そしてその奉仕として、式年遷宮の際に新しく宮を建てるための「御用材」を運ぶための「御木曳行事」、完成した本殿に敷く「白い石」を運ぶための「御白石持行事」があるのです。

次回の「御木曳行事」は2026年と2027年の夏に行われ、そして式年遷宮は2033年。その年に「御白石持行事」が行われます。

次回で63回目の式年遷宮となりますが、前回62回式年遷宮の時は伊勢市内の各地区で77の奉献団(ほうけんだん)が結成された、と記録にあります。お木曳・御白石持行事には「陸曳(おかびき)」と「川曳(かわびき)」があり、どちらを曳くかは地区によって違います。木遣唄とともに五十鈴川をそりを引いて上ってゆく川曳も勇壮ですが、大きな「奉曳車(ほうえいしゃ)」が「わんなり」という「うなり」をあげて進んで行くさまも迫力があります。地区によって法被のデザインも違い、一目でどこの地区か分かります。地元愛を肌で感じ、誇らしくも思います。

伊勢市の公式HPでも説明されています。

御木曳行事

https://www.city.ise.mie.jp/cul_spo_edu/culture/bunkazai_shiseki/bunkazai/minzoku/1002209.html

御白石持ち行事

https://www.city.ise.mie.jp/cul_spo_edu/culture/bunkazai_shiseki/bunkazai/minzoku/1002210.html

またYouTubeの伊勢市の公式サイトでは、前回の御白石持ち行事について詳しく紹介されています。

御木曳行事に向けての課題とは

さてここまで書いて、次回の御木曳行事に向けて期待が膨らんできますが、いろいろと調べていくうちに気がかりな点もいくつか目につきました。

やはりもっとも問題となってきそうなのが「人口減少と高齢化」の問題だと思います。これは伊勢だけの問題ではなく、今や日本全体の問題となっています。

まずは2022年4月現在、伊勢市の高齢化がどれくらい進んでいるかを見ていきます。

現在伊勢市の65歳以上の人の割合は、32.49%となっています。

人口のおよそ1/3がいわゆる高齢者となっています。

これが前回式年遷宮が行われた次の年2014年4月では、27.96%でした。
予想はしていましたが、7年間で4.5%上昇しています。年齢別人口を見ても、これから更に高齢化は進んでいくと思われます。

そして次は人口の増減についてですが、伊勢市の公式なデータを元に以下の表を作りました。

データを見て愕然としました。2015年以降は毎年1000人ペースで人口が減っているのです。

このままだと御木曳行事が行われる2026年には11万人台、式年遷宮が行われる2033年には10万人台まで減っていく可能性すらあると思います。

こうやって数字で見ていくと、現実を突きつけられた気がします。

更なる人口減少と高齢化に向かっていくからには、今から準備をしていかなくてはならないのではないでしょうか。

先日ある地区の奉献団の方と話をする機会がありましたが、「後継者がいない」と嘆いていました。その方は「木遣」を担当していますが、若い人に伝えようにも高校を卒業すると就職や進学の為地元を離れてしまい、残る人は少ない。との事でした。

人口の減少と高齢化の問題は日本全体の問題ですから、伊勢市だけで解決するのはなかなか難しいと思います。例えば都市部から「Iターン・Uターン」で移住者を呼び込むための取り組みや、「ワーケーション」などで地方で暮らしながら仕事をするという方法も考えられますが、どこの自治体でもそういった取り組みは行われており、よほど条件が良くて魅力的でないとなかなか人を呼び込むことは難しいのではないでしょうか。

根本的な問題を解決するのが難しいなら、視点を変えて新しい方策を考えるしかありません。
御木曳・御白石持行事は原則「神領民」だけで行われますが、60回式年遷宮の時から「特別神領民」という参加枠が設けられました。前回の62回式年遷宮の時には全国から7万人以上の方が「特別神領民」として「御白石持行事」に参加されたとのことです。

こういった参加枠を広げることで行事を継続していく事ができるのではないでしょうか。

「見る」御木曳から「参加できる」御木曳に変えていく。

もちろん安全対策も十分に考えなければなりませんし、コースの変更も考えなければならないでしょう。例えば「地域おこし協力隊」の方たちを招いて、御木曳行事について学んでいただき、リーダー的役割をになっていただくこともできるのではないでしょうか。
こうした人材を育てていくことが大切だと思います。

そして人材を育成していくためには「マニュアル」が必要です。私も子供の頃に「子木遣」をしたことがありますが、すべては「口伝え」でした。木遣の時に振るう「采(ざい)」の仕草も大人から手とり足とり教わりました。

こういったことは今ならデジタル・データとして残していくことが出来ると思います。

木遣のみならず、「采(ざい)」の作り方、奉曳車の組み立て方や補修の仕方、木材の積み方、綱の結び方など、御木曳行事にかかる様々なものをデータ化して残していくことが大切だと思います。

終わりに

「式年遷宮」がなぜ20年に一度の「式年」になったのかは諸説あり、はっきりとは分かっていません。一説によると、遷宮が始まった頃の人の平均寿命は40歳くらいであった。ということから、成人する頃に先人たちから技を受け継ぎ、そして壮年期を迎える頃に後の人に技を伝える、というサイクルの中でギリギリの時間だったのではないか、と言われています。

先人からバトンを受け継ぎ、次の人にバトンを渡すのは1度きりしかチャンスがなかった、ということでしょう。

そうやって遷宮は1200年、御木曳行事も500年以上続いてきたのです。

自分たちの時代で終わらせてしまうことは絶対に避けなければならない、と思うのです。

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